『菊と刀』 ベネディクト

 

菊と刀 (光文社古典新訳文庫)

菊と刀 (光文社古典新訳文庫)

 

 

書籍概要

第二次世界大戦中にアメリカ政府より日本文化の分析を頼まれたベネディクト。彼女が研究結果を整理し、1946年に出版した日本人文化論のベストセラー。「どうすれば日本を最小限の犠牲で降伏させられるか」「戦後、天皇の処遇をどうするか」といったアメリカ政府の政策決定に大きな影響を与えた。

 

感想

 本書の内容を一言で表現するならば「日本人あるある」。アメリカをはじめ外国人が読めば日本文化の理解促進という役割を持つが、当事者が読むと「そういう経験ある」「当たり前に受け入れていたけど海外では違うの?」といった別の面をのぞかせる。戦時中に実地調査なしでここまで的を得た内容を書き上げたベネディクトの分析は驚嘆に値する。内容としては「恩と義理」「天皇の不可侵性」「士農工商から続く縦社会」などを扱っており、出版から70年以上経った現代日本においても十分に通用するものとなっている。深く根付いた文化は一、二世代では変わらないという証左でもある。

もともとはアメリカの対日政策の方針を定めることを目的に分析が始まっており、ここまで正確に分析されかつ日本内では同年代の対アメリカ・西欧の分析論がない以上、敗戦はある意味必然だったと言える。孫子の「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉が思い出される。

 

本書に対してはおおむね賛同するものの「自由で平等なアメリカ」と「縦社会に縛られた日本」という対比構造には反対したい。ここで否定したいのは「縦社会に縛られた日本」に対してではなく(現に縦割り行政が横行している)、アメリカは果たして真に自由で平等なのかだ。

本書出版時にはアメリカ国内で異人種間の結婚禁止が法律で定められており、白人と有色人種が結婚した場合は2人とも刑務所送りとなるのが当たり前だった(1967年にアメリ最高裁が無効判決を出すまで続いた*1)直近でいうとトランプ前大統領の白人至上主義やブラック・ライヴズ・マター*2は記憶に新しい。

これらから浮き彫りになるのは優秀な分析者でも自分(自国)のことになるとバイアスがかかり正確さに欠けるということだ。これは日本人が自国を分析してもバイアスがかかる以上『菊と刀』を越えることはできないという裏返しでもある。出版から70年以上経った今もなお読まれ続けているのはそこに理由があるのかもしれない。