『鋼鉄都市』 アイザック・アシモフ

 

書籍概要

宇宙人惨殺事件の担当となった刑事ベイリとロボットであるR・ダニールのコンビを通して、理解しあうことの大切さを教えられるSFミステリーの傑作。

 

感想

著者のアシモフについては「ロボット三原則」の提唱者という認識しかなく、SFミステリーといいつつもSFがメインでミステリーとしての要素はおまけ程度だと思って読み始めたが、この認識は間違いだった。ミステリー解決の手掛かりは読者にもフェアに提示され、かつミステリーでは当たり前になっている「双子・一人二役」のトリックもSFならではの切り口で扱うことで新鮮さがある。そういう意味ではありふれたミステリー小説よりも「ノックスの十戒」に則っているし、かといって退屈になることはない。

 

本書において地球人はロボットに対して自分たちの職を奪う点で憎悪の感情があり、主人公の刑事ベイリも例外ではない。これは現代人がAIに対して希望感と同時に抱いている不安感にも似たところがある。そんなベイリが宇宙人惨殺事件の担当になり宇宙人との共同捜査に乗り出すのだが、宇宙人側の捜査官はロボットであるR・ダニールなのだ。当然ベイリはロボットへの嫌悪感や早く事件に幕を引きたい一心から相棒のR・ダニールを二回も犯人だと推理する。どちらも結果的には間違いなのだがSFだからこそのトリックであり、それ単体でも短編小説にはなりそうなものを二つも贅沢に使っており冗長さがない。そんな相いれない両者が次第に理解しあい、最後には阿吽の呼吸で事件を解決する過程も読んでいて飽きが来ない。

 

またミステリーでは犯人が犯行を認めて終わるので、どうしても寂寥感ややるせなさが付きまとう。しかし本書は犯人が分かってもそのような気持ちは湧かず、むしろハッピーエンドに対する感情に近い。それは事件の捜査を通してベイリはロボットとの共存を望むようになり、R・ダニールは「赦す」ことを覚え前向きに終わるからだろう。「ロボットとの共生」というテーマをミステリーを交えながらも書き上げたアシモフにこそ天才という言葉はふさわしいと思う。