『樽』 F・W・クロフツ

 

 書籍概要

英仏を跨って展開されるアリバイものの原点ともいうべきミステリー小説。

 

感想

本書はアリバイ崩しを中心に据えた初めてのミステリー小説と評されており、クロフツの代表作でもある。アリバイものはその性質上一度鉄壁と思われるアリバイが提示された上でそれを再検討し崩すので、読者としては対象となるアリバイを二度検討・読むためどうしても疲れてしまう。本書はおよそ480ページなのに対し、6割強にもあたる300ページほどで鉄壁のアリバイが提示された上で残りのページで崩される。アリバイものは元々事実を淡々と地道に調べるためどうしても長くなりがちである。そこへクロフツの作風として綿密な描写も相まってかなり冗長に感じる。読者はアリバイがきれいに崩されることでカタルシスを得るのだが、そのカタルシスとそこまでの道のりの長さを比較すると『樽』においては両者の釣り合いが取れていないと感じる。

読み終えるのに時間が掛かったのは純粋にページが多いこともあるが、上記の理由で中盤で何度か挫折しかけたからでもある。先駆者がいない分野とはいえもう少し改善の余地があったように思う。