『将棋400年史』 野間俊克

 

書籍概要

将棋の棋譜・歴史が文献として残っている江戸時代から平成時代までのおよそ400年の歴史を振り返る。

 

将棋400年史 (マイナビ新書)

将棋400年史 (マイナビ新書)

 

 

感想

参考文献が少ない江戸時代・大正時代については文章が淡々としているが、名人や棋聖といったタイトルがどのような歴史的経緯のもと誕生したのかを紐解いておりこの点においては他の追随を許さないと思う。

昭和時代になると文献が多く、また筆者が昭和生まれであり実際見聞きしたことも混じるため、かなり詳細になってくる。木村義雄升田幸三など見知った名前も登場しだす。反面、筆者の主観も挟まるため公平な立場で書かれているかというと疑問符がつく。

平成時代は羽生九段の永世七冠への道のりとAIの台頭がメイン。藤井二冠のデビュー後29連勝の大記録や驚きの昇段スピードについても触れられている。本書が2019年2月刊行ということもあり文中では「(藤井の)タイトル獲得は間違いないが、屋敷の記録を更新できるかどうか、非常に楽しみだ(P219)」となっている。結果から言うと2020年夏に棋聖を獲得しており、屋敷九段の記録を塗り替えたことは記憶に新しい。当たり前ではあるが将棋の歴史は現在進行形であり、「羽生の無双時代」や「藤井二冠の台頭」もいつか過去の話となり400年の歴史の一部になると考えると感慨深い。

 

総評すると全体的に文献をもとに丁寧に書かれており、また他に将棋界の変遷を詳細に書いた書籍が少ないこともあり、貴重な1冊だ。惜しむらくは写真等が1個もないこと。江戸時代は特に「何代目誰それ」という表現のみで人物関係がこんがらがる。人物写真はないにしても師弟関係・血筋などを図でまとめて最後に付けるだけでも把握しやすさが上がると思う。改訂版を期待したい。