『恐竜はなぜ鳥に進化したのか 絶滅も進化も酸素濃度がきめた』 P・D・ウォード

 

 

書籍概要

カンブリア紀大爆発から現代に至るまでの進化の謎を酸素濃度に注目し紐解いていく。

 

感想

タイトルに惹かれて購入したのだが恐竜に関する記述は全400ページ中約100ページなので期待外れだった。原題は“Out of Thin Air(直訳すると「薄い大気の中から」)”で内容と合致しているので、読者が手に取りやすいようにセンセーショナルな邦題にしたのではないかと勘繰られても仕方がないと思う。

 

肝心な内容だが「生物の進化・絶滅は当時の酸素濃度に影響を受けているのではないか」という考えにのっとり、いくつかの仮説が展開されていく。例えば「カンブリア紀に最も栄えたのはなぜ節足動物なのか」という謎に対しては「多数の体節の下に大きな鰓を持つことで泳ぐ際に抵抗を少なくしつつ、海中の薄い酸素を効率的に取り込んでいた」として大胆な仮説を提示している。他にも酸素量の増加と陸上進出を関連付けて考えるなど興味深い内容となっている。

ただし全ての事象を酸素濃度で説明しようとしている節もあり、鵜呑みにするのは危険だと思う。2010年出版であり日々定説が変わっていく世界であることを念頭において読むことが必要だろう。

『マッキンダーの地政学 デモクラシーの理想と現実』 H・J・マッキンダー

 

書籍概要

現代地政学の祖 マッキンダーの著作。第一次世界大戦終結した1919年に発表され、国際連盟を軸としたデモクラシーの今後の課題を地理的な要因から読み解く。

 

感想

ここ数年、国内でも地政学ブームが起きており多くの書籍が出版されているが、大半が本書でマッキンダーが提唱する「ハートランド論」をもとにしている。そのため地政学を本格的に勉強する上では必読の書だと思う。

1919年発表ということもあり当時の各国の力関係が頭に入っていないと読むのに苦労するが、歴史好きとしては当時の予想がどの程度当たっているのかを確認しながら読むとなお一層楽しめて一石二鳥だった。特に第6章ではドイツの将来的な東欧進出の可能性を予見し、ロシアとの間に緩衝国の必要性を訴えるなどマッキンダーの慧眼には目を見張るものがある。(実際、ナチス・ドイツは「東方生存圏」に基づきポーランド侵攻独ソ戦に踏み切っている)

 

本著でマッキンダーは「ユーラシア大陸の内陸部」をハートランドと定義した上で「東欧を支配する者はハートランドを制し、ハートランドを支配する者は世界島を制し、世界島を支配する者は世界を制する(P177)」としている。ではその理論は100年経ち、航空機や大陸間弾道ミサイルが発展した現在の世界情勢にも当てはまるのだろうか。

ハートランドにあたる地域は現在ロシアが支配しており世界制覇とまではいかないものの、超大国アメリカに対抗できる数少ない国であることは間違いない。また旧ソ連諸国をはじめ、その影響力は今なお大きい。今後、戦禍を繰り返さないためにもロシア周辺に位置するEU・日本がアメリカと連携して、その影響力を抑え込んでいくことが重要だろう。

『菊と刀』 ベネディクト

 

菊と刀 (光文社古典新訳文庫)

菊と刀 (光文社古典新訳文庫)

 

 

書籍概要

第二次世界大戦中にアメリカ政府より日本文化の分析を頼まれたベネディクト。彼女が研究結果を整理し、1946年に出版した日本人文化論のベストセラー。「どうすれば日本を最小限の犠牲で降伏させられるか」「戦後、天皇の処遇をどうするか」といったアメリカ政府の政策決定に大きな影響を与えた。

 

感想

 本書の内容を一言で表現するならば「日本人あるある」。アメリカをはじめ外国人が読めば日本文化の理解促進という役割を持つが、当事者が読むと「そういう経験ある」「当たり前に受け入れていたけど海外では違うの?」といった別の面をのぞかせる。戦時中に実地調査なしでここまで的を得た内容を書き上げたベネディクトの分析は驚嘆に値する。内容としては「恩と義理」「天皇の不可侵性」「士農工商から続く縦社会」などを扱っており、出版から70年以上経った現代日本においても十分に通用するものとなっている。深く根付いた文化は一、二世代では変わらないという証左でもある。

もともとはアメリカの対日政策の方針を定めることを目的に分析が始まっており、ここまで正確に分析されかつ日本内では同年代の対アメリカ・西欧の分析論がない以上、敗戦はある意味必然だったと言える。孫子の「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という言葉が思い出される。

 

本書に対してはおおむね賛同するものの「自由で平等なアメリカ」と「縦社会に縛られた日本」という対比構造には反対したい。ここで否定したいのは「縦社会に縛られた日本」に対してではなく(現に縦割り行政が横行している)、アメリカは果たして真に自由で平等なのかだ。

本書出版時にはアメリカ国内で異人種間の結婚禁止が法律で定められており、白人と有色人種が結婚した場合は2人とも刑務所送りとなるのが当たり前だった(1967年にアメリ最高裁が無効判決を出すまで続いた*1)直近でいうとトランプ前大統領の白人至上主義やブラック・ライヴズ・マター*2は記憶に新しい。

これらから浮き彫りになるのは優秀な分析者でも自分(自国)のことになるとバイアスがかかり正確さに欠けるということだ。これは日本人が自国を分析してもバイアスがかかる以上『菊と刀』を越えることはできないという裏返しでもある。出版から70年以上経った今もなお読まれ続けているのはそこに理由があるのかもしれない。

『将棋400年史』 野間俊克

 

書籍概要

将棋の棋譜・歴史が文献として残っている江戸時代から平成時代までのおよそ400年の歴史を振り返る。

 

将棋400年史 (マイナビ新書)

将棋400年史 (マイナビ新書)

 

 

感想

参考文献が少ない江戸時代・大正時代については文章が淡々としているが、名人や棋聖といったタイトルがどのような歴史的経緯のもと誕生したのかを紐解いておりこの点においては他の追随を許さないと思う。

昭和時代になると文献が多く、また筆者が昭和生まれであり実際見聞きしたことも混じるため、かなり詳細になってくる。木村義雄升田幸三など見知った名前も登場しだす。反面、筆者の主観も挟まるため公平な立場で書かれているかというと疑問符がつく。

平成時代は羽生九段の永世七冠への道のりとAIの台頭がメイン。藤井二冠のデビュー後29連勝の大記録や驚きの昇段スピードについても触れられている。本書が2019年2月刊行ということもあり文中では「(藤井の)タイトル獲得は間違いないが、屋敷の記録を更新できるかどうか、非常に楽しみだ(P219)」となっている。結果から言うと2020年夏に棋聖を獲得しており、屋敷九段の記録を塗り替えたことは記憶に新しい。当たり前ではあるが将棋の歴史は現在進行形であり、「羽生の無双時代」や「藤井二冠の台頭」もいつか過去の話となり400年の歴史の一部になると考えると感慨深い。

 

総評すると全体的に文献をもとに丁寧に書かれており、また他に将棋界の変遷を詳細に書いた書籍が少ないこともあり、貴重な1冊だ。惜しむらくは写真等が1個もないこと。江戸時代は特に「何代目誰それ」という表現のみで人物関係がこんがらがる。人物写真はないにしても師弟関係・血筋などを図でまとめて最後に付けるだけでも把握しやすさが上がると思う。改訂版を期待したい。